2021年6月に4年ぶりに弊ブログを再開しましたが、このベストアルバム企画は5年ぶりです。読者の方はご存知のように新作はあんまり追っていません。今年は30枚も聴いてないと思います、それぐらいパッとは出てこない。おかしい、本や映画は新しいのをチェックしているのに(こちらも年内に書くのですが)。サイト/ブログを始めて以降、最も少ない母数から選出しているベスト記事となっています。
とりあえず今のスタイルが、アーティストの全オリジナルアルバムを追って書いていくという形。それが関係しているのと特定のジャンルに寄っているというのが主だった要因ですが、来年も継続していくと思います。選出したリストは、読者からするとこの人らしいなと思われるだろうし、知らない人からすると新しい発見がもしかしたらあるかもしれません。
ということで以下にベストアルバム5枚、ベストトラック5曲を選出しています。お付き合いいただければ幸いです。
2021年 ベストアルバム5選
第5位 Tacoma Narrows Bridge Disaster 『The World Inside』
2009年より活動を続けているUKの4人組バンドの6年ぶり4枚目のフルアルバム。全6曲50分収録で、唯一の歌入り#4「Truth Escapes」以外はインスト長尺曲が並びます。バンド名は、アメリカ・ワシントン州にあるタコマナローズ橋が1940年11月にわずか4カ月で落橋した事件からきています。
メンバー2人が変更してつくられた本作。前作よりもプログレのアプローチが増量したことでの変化は感じ取れます。ポストロック/ポストメタルの要素を多分に有したプログレッシヴ・メタルという趣。Explosions In The Skyの叙情性からISIS(the Band)の幽玄/構築美を持ち寄り、Maseratiのダンス・グルーヴ、Russian Circlesの剛健と緻密さが合わさる。さらにはTOOLであったり、70’sプログレ~クラウトロックからの手引きもあります
また作品は、ポスト・トゥルース(客観的な事実よりも感情や個人的な信条によって表されたものの方が影響力を持ってしまう状況)に疑問を投げかける。途方もない情報量の中で生きざるをえない現代人に対して、本作を聴いて疑問を持ってほしいとメンバーは語る。混迷の世に対し、彼らが放つ音の渦に飲まれることで思考の時を与えようとしているのです。
第4位 King Woman『Celestial Blues』
イラン系のアメリカ人女性シンガー・Kris Esfandiariが率いるドゥームメタル+歌ものバンドの4年ぶりとなる2作目。Relapse Recordsからリリースされているように、空間を抑圧する重々しいグルーヴが軸。とはいえ、シューゲイズやゴスの要素は強く混合しており、フォークみたいな感触も含まれています。過剰なエフェクトをかけたヴォーカルも相まって重量感はやわらいでいて、むしろぼやけている/くっきりしていない音像になっている。
Kristina Esfandiari自身に内在化した”宗教”というテーマがあって前作もそれに対した歌詞を書いていました。彼女自身がカルト的なキリスト教コミュニティで育った経緯からきているものですが、本作ではジョン・ミルトン『失楽園(Paradise Lost)』を参照しながら描かれている。そんな彼女が背負ってしまった痛みを自身で昇華する、立ち向かうための物語。
King Womanの全フルアルバム2枚については以下で書いています。ぜひとも併せてご覧ください。
第3位 cali≠gari 『15』
1993年に結成された異形のヴィジュアル系バンドの3年ぶりとなる15枚目。活動休止からの復活以降では『12』を凌いで最高傑作だと感じます。アダルト・ヴィジュアル系(略してAV)というには、あまりにエネルギッシュで快速のドライヴ感があって驚きます。リードトラックとなる#1「ひとつのメルヘン」からスパニッシュ・ギターでスパイス効かせているも、それでもなお滲みでてくるcali≠gariの味。熟練と変化の両軸が基本にあるからこそ成せた作品です。
#3「嗚呼劇的」は特に聴いていて感動的。シンセサイザーの煌めきを表層に置き、その中で3人のメンバーの個性が思う存分に発揮されている。しかもすごくキャッチーでメロディが素晴らしいので何度も何度も聴いてしまう。研次郎さん作詞作曲の#7「ニンフォマニアック」はラース・フォン・トリアーの同名映画からタイトルを拝借してますが、強烈なシンセチューンとして機能しています。
後半の曲はいつも通りに哀愁よろしくがブーストしていく。結局のところ、cali≠gariのようなバンドは世界のどこからも出てきていない。だからこそ彼等は唯一無二という言葉がふさわしい。でも、伝説とかレジェンドとかいう言葉はあんまり似合わない。それこそがcali≠gariなんだと思う。個人的な目標として、来年こそはcali≠gariの作品紹介記事を作ります。
第2位 D.A.N.『NO MOON』
“いつの時代でも聴ける、ジャパニーズ・ミニマル・メロウを追求する”日本の3人組による3rdアルバム。ひょうひょうとした風貌から恐ろしい作品を生み出し続けていますが、小林うてなさんが再び全面参加した本作は最高値を更新。タイトル通りの#1「Anthem」におけるD.A.N.要素を全部用いてのゴージャス集中砲火で幕開け。やや速足のBPMで重厚かつプログレッシヴともいえる曲の中で、”未来は無重力のダンスフロア”と歌うように音が踊りまくっています。
アルバムはインタールードとして3曲用意された「AntiphaseⅠ~Ⅲ」までを的確に配し、これまで以上に流れが重視されています。ド頭はド派手に盛り上げ、すぐに沈み込むような地と海の底を眺め、徐々に浮上しながら月のない世界に飛び込んでいく。また、映画『TENET』における時間の描き方の影響も大きいとインタビューで語っています。
みんなが変わってしまった世界を生きている。それでもD.A.N.の音楽は踊らせることを止めません。複雑かつ重厚化しながらも、昂揚の波は全12曲に渡ってひたすらに押し寄せる。そんな本作は、現時点における集大成ともいえる傑作。
D.A.N.のオリジナルアルバム3枚、ミニアルバム1枚については以下で書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
第1位 Amenra『De Doorn』
2018年11月に初来日を果たした、ベルギーのポストメタル重鎮による4年ぶり7枚目のフルアルバム。結成から20年を過ぎ、シリーズとして発表が続いた『Mass』という看板を取っ払っての初作品。”De Doorn = 棘”を意とするタイトル。棘があることで必然的に取られる距離感や痛みがもたらされる。そして、人間は己に何らかの棘を持ち、他者が持つ何らかの棘に警戒を覚えるものです。
盟友であるベルギーのポストハードコア・バンド、OathbrekerからVo.Caro姐が本作で久々に登板。作品全体で明らかに余白と朗読が増やしており、最低限に音を減らし、静かに語るパートが全5曲に存在する。聴き手に対し、己の内面を深く見つめ直すことを促すように。人々を諭すような朗読、余りにも悲痛過ぎる叫び。暗黒と重音を統率して「痛み」を表現し続ける彼等の儀式は、さらに効力を増しています。
苦しみを薪として、築かれる漆黒の大伽藍。かつてのような禍々しい怨念よりも、解放への祈祷のごとく。本作は決して苦痛への招待状ではなく、暗闇の淵に引きずり込むようなものではなく、生命を尊み悼む音が押し寄せるものです。「Mass」という線ではなく、『De Doorn』という点で描いたからこそ、彼らは別の到達点へと導かれたのかもしれません。
ちなみに10分を超える#1「Ogentroost」がオランダのプロレスラー、Malakai Black(マラカイ・ブラック)の入場テーマに使われています。
参考文献:Marunouchi Muzik MagazineさまによるVo.Colinへのインタビュー
また、Amenraのについては以下で書いています。
2021年 ベストトラック5選
第5位 American Football「Rare Symmetry」
2021年12月に突如リリースされた新曲。2021年に脱退したドラマーのSteve Lamosが最後に参加したレコーディング音源だそう(気付いてなかった・・・)。メロウでエモいというカタカナ語に集約されるアメフト印の曲ではあるんですが、厳冬に聴いてると心の内側から温めてくれるような優しさと歌心がある。ビブラフォンの彩り、アルペジオの反復、穏やかなリズム。どれもが美しい楽曲の源になっています。ちなみにカップリングがMazzy Star「Fade Into You」のカバー。
American Footballのオリジナルアルバム3枚については以下で書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
第4位 Cult of Luna「Three Bridge」
スウェーデンのポストメタル巨星による2021年2月リリースのEP『The Raging River』より。CoL印のCoLサウンドのCoL is GODな楽曲。20年以上のキャリアがある中でも衰えることなく、圧倒的な剛と柔を兼ね備え続ける彼等。それゆえにCult of Lunaを信仰しなさいとわたしはお伝えするだけです。
以下で、Cult of Lunaの全オリジナルアルバム8枚、EP『The Raging River』について書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
第3位 Deafheaven「In Blur」
ポストブラックメタル/ブラックゲイズの顔であるDeafheaven。彼等がポスブラ耐久マラソンから手を引いて、普遍的なロックを目指した5thアルバム『Infinite Granite』からのリード曲。UKロック・ミーツ・軽度なシューゲイズみたいな感じですが、この澄み切った美しさは、煌めく音色と共に心に染みてきます。かなりリピートした曲の一つ。
Deafheavenのオリジナルアルバム全5枚については以下にて書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
第2位 MONO「Hold Infinity In The Palm Of Your Hand」
11枚目のオリジナルアルバム『Pilgrimage of the Soul』より。アルバム自体をベストの方には入れませんでしたが、もちろんお気に入りの一枚です。その作品は、MONO自身が紡いできた20年の歴史を音で描いたものとなっていて、彼らの歴史の追体験できるもの。
アルバムの後半を飾るこの曲は12分を超える大曲。ゆえにMONOの歴史の凝縮と呼べる曲です。グロッケンシュピールを用いていること、大きな起伏と過度なロマンティックさを湛えたサウンド。それはバンドのトレードマークである「Ahses In The Snow」の幽玄な美しさに並ぼうとするものに感じます。魂の深奥にまで染み入るその音は、聴く者の精神を掻き立てると同時に深く浄化するものです。
MONOのオリジナルアルバム全11枚、オーケストラと共演したライヴアルバム2枚の計13枚について以下に書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
第1位 ROTH BART BARON「鳳と凰」
ROTH BART BARONの5月にリリースされた曲。ROTHはおそらく今年一番聴いたアーティストです。去年もかなり聴いてるのですが、今年はさらに拍車がかかっている。5月に参加した久しぶりの有観客ライヴが彼等だったということは大きいです。そして、この時代において生きることを最も響く言葉で歌っていると感じているから。
「鳳と凰」は前述のライヴで新曲としていち早く聴きました。小規模のオーケストラのような壮大さの中に、どこか地に足の着いたどっしりとしたサウンドの頼もしさがある。さらに”普通に生きたかった なんて本当は嘘だよ”という詞がいつも心の中で反芻する。そして、自分の生きざまを顧みることになる。
ちなみにSpotifyでわたしが2021年に一番聴いた曲はこれではなく、前年にリリースされアルバムに収録されている「ひかりの螺旋」。この曲はとにかく生命力を感じさせるもので特に気に入っています。
ROTH BART BARONの全フルアルバム6枚については以下で書いています。 ぜひとも併せてご覧ください。
2021年に参加したライヴについて
ライヴに関しても軽く振り返っておきたいのですが、今年に入って1年3ヶ月ぶりに有観客ライヴへ足を運びました。ROTH BART BARONのライヴでしたが、久しぶりということもあってグッとくるものがありました。このライヴを体感したことで、自分も何かして前に進まねば!という気持ちになって、サイト再開につながったところがかなりある。
その後は新感染症流行後に初となる音楽フェスへ行き、その後もちょくちょくと足を運んでいます。以下がそのリストです。7本は多いのか、少ないのか。
・2021年05月16日 ROTH BART BARON @ 名古屋ボトムライン
・2021年06月13日 森、道、市場 2021 DAY3 @ 蒲郡ラグーナビーチ+ラグナシア
・2021年07月04日 THE NOVEMBERS @ 名古屋クラブクアトロ
・2021年10月24日 envy @ 大阪ANIMA
・2021年11月02日 DIR EN GREY @ ZEPP NAGOYA
・2021年11月24日 Vampillia @ 池下CLUB UPSET
・2021年12月10日 sukekiyo @ ZEPP NAGOYA
なんだかんだで今年は自分にとって重要なバンドは観られています。DIR EN GREY然り、THE NOVEMBERS然り、Vampillia然り。envyはコロナ禍に入ってから初めて県外まで遠出して見に行ったのですが、あの音を浴びれて心がすごく奮い立った覚えがあります。
来年もまだまだ厳しい状況は続きます。世界は決して元には戻りませんが、いい未来であることを願いたいものです。