【轟音系ポストロック 25選】静と動の研ぎ澄まされた美学

タップできる目次

轟音ポストロック25選 13-25

This Will Destroy You / Another Language (2014)

 アメリカ・テキサス州のインスト4人組。1st~2ndは先輩のEITSに感化された静から動への移行をメインにした音像だったが、前3rdアルバムでは”ドゥームゲイズ”と自称した音響アプローチを取るようになる。

 この4thではドゥームゲイズは薄めつつ、初期の作風が重なり合う。そして電子音の増量。特徴的なのはゆるやかな遷移とまどろむようなレイヤーで、気づけば意識が侵食されている。

 幅広いレンジで骨抜きにする#1「New Topia」を皮切りに、#2「Dustism」でTWDYのモテ要素をフル活用したメランコリックなインストを展開。回帰と地続きの表現でエレガントなトーンとダイナミクスが連帯した佳作。

オススメ曲:#2「Dustism」

This Will Destroy Youの作品紹介はこちら

Caspian / Tertia (2011)

 アメリカ・マサチューセッツのインスト5人組。国内盤がリリースされた1stアルバムには”Brian Eno指揮のExplosions In The SkyとIsisによる交響曲”というウルトラ形容が躍った。

 本作は2ndアルバムで、先人達が生み出したポストロック様式を用いながら順当なアップデート。神秘的な雰囲気をつくりあげるトレモロ・ギター、仄かな彩りを与える鍵盤やストリングスを駆使し、詩情と歓喜をもたらしてくれる。

 何よりも轟音ポストロック好きが抗えないカタルシスが本作にはある。荘厳な前半を経て雷鳴のように轟く#3「Ghosts of the Garden City」、ポストロック界を代表する名曲として君臨する#10「Sycamore」を収録。

オススメ曲:#3「Ghosts of the Garden City」

Caspianの作品紹介はこちら

Gifts From Enola / Gifts From Enola (2009)

 2005年にアメリカ・ヴァージニアで大学の友人同士で結成。リリースから10年経ってリマスター発売された2ndの方が最高傑作と名高いが、今回はこの3rdアルバムを推したい。

 インストが基調であるものの、マスロック~ハードコアのアプローチを増やし、曲によっては歌も入ってきて猛然と突き進む。

 雰囲気ものに終始せず、自身が受けてきた影響元とこれまでの音楽性を結びつけながら、ポストロックというタグ付けへの抵抗と解答を提示。

 荒々しく吹きすさぶ嵐のような音は圧巻で、勢いとエネルギーがあるインストを聴いてみたい方に薦めたい。次作は激情系ハードコア~スクリーモに開眼して完全に方向転換。最終的に2013年に解散した。

オススメ曲:#2「Dime and Stuture」

Gifts From Enolaの作品紹介はこちら

EF / Give me beauty​.​.​. Or give me death! (2006)

 2003年にスウェーデン・ヨーテボリで結成された5人組バンド。活動から20年経過しているが、現在も一線で活動中。

 本作はデビュー・フルアルバム。モグワイやシガーロスに引き合いに出されるが、轟音系ポストロックの方程式に淡く消え入りそうな男女が組み込まれるのが特徴。

 北欧系の冷たさから徐々に熱を帯びていく様、明暗のコントラストを生かした壮大な物語は、昂揚と感動の光に包みこむ。

 なお本作は2012年にCult of LunaのMagnus Lindbergが手掛けたリマスター盤が発売されている。

オススメ曲:#3「Hello Scotland」

pg.lost / Yes I am(2007)

 元Eskju Divineのメンバーを中心に結成されたスウェーデンの4人組。ベーシストは現在のCult of Lunaのメンバーである。本作は1st EPで全5曲約36分収録。

 20代前半にレコーディングされた作品だが、現在でも主力ナンバーが揃う原点。そして、メランコリーに彩られたインスト・ポストロックの海源である。

 Mogwai~EITSに続くポストロック王道作法に準ずるものだが、pg.lostはもっと叙情的なスタイル。

 #1「Yes I Am」や#2「Kardusen」はこの手の音楽を聴く醍醐味を味わい、#5「The Kind Heart of Lanigon」では温かい春風のような心地よい時間に浸れる。原点にして美点の詰まったEP。

オススメ曲:#2「Kardusen」

pg.lostの作品紹介はこちら

The End of the Ocean / Pacific•Atlantic(2011)

 アメリカ・オハイオ州の男性3人・女性2人から成るインスト・バンドの1stアルバム。8曲入りでタイトルが示すように前半4曲が”Pacific”、後半4曲が”Atlantic”の位置づけ。

 内容はインスト・ポストロックの良心といえるもので、重層的で美しい音のヴェールが包み込む。穏やかな感情の起伏をそのまま綴ったような手触り、儚く淡いシンセや打ち込みのビート、少しずつ燃え上がっていくように力強さと音圧を増していく展開。

 それらはこのバンド特有の煌びやかさと慎ましさを感じさせる。締めくくりの11分を超える#8「we always think there is going to be more time」は珠玉という言葉を添えたい名曲。

 ちなみに#3「Worth Everything Ever Wished For」のSpotify再生回数は2100万回を超えていて驚く。

オススメ曲:#8「we always think there is going to be more time」

The End of the Oceanの作品紹介はこちら

甜梅號(Sugar Plum Ferry) /  Islands on the Ocean of the Mind(2010)

 1998年から2015年まで活動した台湾のインスト4人組による3rdアルバム。ピアノやストリングスの大らかな響きも用いながら、膨れ上がっていく音圧は豪快に景色を塗り替えていく。

 美しいメロディと分厚いギターサウンドが魅せる静と動のコントラストの鮮やかさ。それに伴ったダイナミズムはさすがに10年以上にもわたって、磨き上げてきただけあって貫禄すら感じさせる。

 優美で力強い#6「The Tolling Bell」を2011年のフジロック・ジプシーアヴァロンで体感した時は、とても感動したのを覚えている。

オススメ曲:#6「The Tolling Bell」

メインアーティスト:甜梅號
¥1,200 (2024/04/24 11:47時点 | Amazon調べ)

甜梅號(Sugar Plum Ferry)の作品紹介はこちら

Jakob / Solace(2006)

 1998年にニュージーランドで結成された3人組。公式サイトによると本業の仕事を持ちながら、24年を超えて今も活動を続けていて5枚の作品を残している。本作は3rdアルバム。

 織物職人のごとき慎重なタッチでテクスチャーを構築し続けるインストであり、派手さはない。

 メンバー3人とも攻撃と守備のリスク管理に長けたボランチのようで、催眠を誘うミニマルなギターから地響きを起こす重厚な音壁までサウンドを統制。

 完全にリミットを外れてNadjaばりの音量が鼓膜を襲う#2「Pneumonic」、彼等なりの轟音ポストロックの極地#5「Safety In Numbers」などバンドの実力を思い知る。そしてJakobの音楽は”祈り”という言葉が不思議と似合う。

オススメ曲:#2「Pneumonic」

メインアーティスト:Jakob
¥600 (2023/07/16 16:04時点 | Amazon調べ)

Laura / Radio Swan Is Down(2006)

 2001年にオーストラリア・メルボルンで結成された6人組。本作は2ndアルバムで当時に国内盤も発売された。チェロやグロッケンシュピールを加えた編成に電子音を含めて色合いを増やし、繊細な情緒を表現。

 前半はGY!BE辺りを彷彿とさせる暗い旅路を進み、後半にかけては穏やかに希望をふくらませていくが、心地良さよりも侘しさが通底している。

 一部の曲で声を楽器のように用い、ギターとチェロが物悲しく共鳴。鎮静と暴発が繰り返される音像に言葉は無いが、人生の苦みと喜びを嚙みしめる文学性が感じられる。

オススメ曲:#3「I Hope」

Audrey Fall / Mitau(2014)

 ラトビア共和国を拠点に活動したインストゥルメンタル・カルテットの唯一のフルアルバム。

 静から動への王道パターンに加え、#5「Bermondt」の重厚なリフの応酬はRussian Circlesを思わせ、マスロック~プログレの理知的な構成が取られた曲もあり。

 美しいツインギターの染み入るように広がっていく一大叙情詩#6「Valdeka」は感動的であり、優美なアンビエンスをくぐり抜けた先に轟音プログレッシヴの大河に突入する#8「Courland Aa」もシビれる楽曲。

 ポストロックとポストメタルの中間的な強度と叙情性を誇りながらも、全体を通して美しい物語を描いている。

オススメ曲:#3「Wolmar」

➡ Audrey Fallの作品紹介はこちら

Sleepmakeswaves / Love of Cartography (2014)

 オーストラリア・シドニーの4人組。本作は2ndアルバム。今回は挙げていない65daysofstaticを参照しながらもメタル~プログレの強度でビルドアップした、ユーモアと快楽のインストゥルメンタル。

 力強いバンドサウンドとネオンのごとき光の帯が広がり、ダンサブルな要素が多く盛り込まれている。少しだけ暗さを感じるシーンもあるが、繊細な音の陶酔感に誘うよりも、昼間だろうと真夜中だろうと関係なく活発なエネルギーでノせてくる。

 ポストロックはヒューマンドラマに近いと思っているが、彼等はアクション映画のよう。それこそ”クラブでかけよう轟音ポストロック”みたいな標語が似合う感じ。ちなみに次作は少し控えめでプログレ寄り。

オススメ曲:#9「Something Like Avalanches」

sleepmakeswavesの作品紹介はこちら

If These Trees Could Talk / The Bones Of A Dying World (2016)

 アメリカ・オハイオの5人組による3rdアルバム。Metal Blade Recordsからのリリースであることに驚かされるが、トリプルギターを擁した美と重の共演はポストロック~ポストメタルの中間といえるもの。

 クリーン・トーン~トレモロのコンビネーションを中心に組み立てられ、全体通しては漂白された白とメランコリックな息遣いの方が勝る。

 メタル指数が少し高まった#8「Berlin」のような曲もあるが、一瞬の爆発力にかけるではなく、しなやかにドラマを編んでいく姿勢がこのバンドらしい。

オススメ曲:#1「Solstice」

If These Trees Could Talkの作品紹介はこちら

We Lost The Sea / Departure Songs (2015)

 オーストラリア・シドニーの6人組による3rdアルバム。ヴォーカリストが2013年に亡くなったことで、本作からインスト・バンドとして再出発した。

 静から動へ。先人が生み出したポストロック王道方式を用いて、喪失から再生への物語を気高く美しく描く。

 美しいテクスチャーと荘厳なコーラスが重なる31「A Gallant Gentleman」による鎮魂から、Cult of Lunaの影響下にあることを伺わせる「Challenger Part 1~Part2」の30分を超える激動まで。

 アルバムに流れるもの悲しいトーンに心を締め付けられるも、放たれる轟音はすべてを包み込む。

オススメ曲:#1「A Gallant Gentleman」

メインアーティスト:We Lost The Sea
¥1,000 (2024/05/03 16:44時点 | Amazon調べ)

We Lost The Seaの作品紹介はこちら

どれを聴く?

 読んでいたら興味がわいたぞ! でも、20枚の中からどれから聴けばいいのか?

 鉄板と個人的なオススメ作品を5枚にまとめましたのでご参照ください。

オススメ作品5枚

 MogwaiとEITSは轟音系ポストロックを語る上では外せない作品。MONOは同じ日本人として世界に挑み続ける偉大なバンドであり、その中でも『Hymn~』は最高傑作と謳われます。

 個人的なオススメとしてSaxon ShoreとWe Lost The Seaを挙げています。どちらも魂を諭すような泣けるインストゥルメンタル。

プレイリスト

オススメ書籍

 本記事でも引用しているポストロック・ディスク・ガイド(2015年刊行)』がオススメです。

 今回は轟音系ポストロックに焦点を当てていますが、シカゴ音響派、エモ、シューゲイズ、スロウコアまで踏み込んで書籍で解説されています。

 多様化したこのジャンルをもっと知りたい方は読んでみてほしい。モグワイのインタビューもありますよ。

フジロック’22 モグワイのステージが体感できてよかった。
1 2
お読みいただきありがとうございました!
タップできる目次