ポストメタル・ディスクガイド⑩
SUMAC / What One Becomes (2016)
アーロン・ターナー(ex-ISIS)、ブライアン・クック(Russian Circles)、ニック・ヤキシンという支配者級/クエストクラスの3名によるゴリゴリスラッジ・バンドの2作目。
重圧的スラッジメタル風リフの反復を主に、殺伐としたダークサイドに入り浸りさせるように肉体的&精神的に追い込んでくる。
その中にエフェクトを駆使した幅のあるノイズ爆撃、インプロ的な怒涛のラッシュ、音数を絞った呪術・密教的な展開などのテイストを盛り込む。
鬼神、風神、雷神による鉄壁のアンサンブルの妙。メロディなんて贅沢がないのが、SUMACのストイックさの象徴である。
Tacoma Narrows Bridge Disaster / The World Inside (2021)
UKの4人組による4作目。バンド名は、アメリカ・ワシントン州にあるタコマナローズ橋が1940年11月にわずか4カ月で落橋した事件からきている。
音楽的には、ポストロック/ポストメタルの要素を多分に有したプログレッシヴ・メタルといった印象。
Explosions In The Skyの叙情性からISIS(the Band)の幽玄/構築美を持ち寄り、Russian Circlesの剛健と緻密さが合わさる。さらにはTOOLであったり、70’sプログレ~クラウトロックからの手引きもある。
自分自身の内的な視点をテーマにした思慮深さを持ち合わせており、Thinking Man’s Metalの精神で聴きたい作品のひとつ。
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Telepathy / 12 Areas (2014)
2011年結成のUKのインスト・メタル系バンドの1stフルアルバム。マスタリングをJames Plotkin、アートワークをAlex CFと外堀は超人たちで埋まる。
スラッジ/ポストメタルの要素は基盤になっているが、プログレッシヴ/マス・メタルを衝突させたような感じで、Russian Circlesが近しい音楽性。
興奮を煽るスリリングな展開の連続、加えて重量感バッチリの音塊を見舞う辺りはなかなかに新鮮だ。
”2014年のインストゥルメンタル・ランドスケープにおいてユニークな獣である“とHeavy Blog is Heavyは評している。現在も精力的に活動しており、2020年には最新作『Burn Embrace』をリリースした。
Tesa / C O N T R O L (2020)
バルト三国のひとつ、ラトビアのインスト・トリオによる6作目。強靭なリズムセクションと重厚なギターリフによる旅路。反復による増幅、Tesaの音楽スタイルはそれだが過去作に比べると展開とギミックが増えている。
薄いヴェールのような電子音が被さってはくるし、ノイジーなアレンジも加算。とはいえ、リフの反復によってどこまでもどこまでも突き進むことで、快感と想像力を高めていく特徴は本作においても健在である。
#4「control 4」はCult of Lunaと比肩するポストメタルの質量だ。
threestepstotheocean / Del Fuoco (2020)
イタリア・ミラノのインスト・ポストメタル・バンドの5作目。”心象風景を巡る旅”をテーマとしていて、砂漠や遺跡などを舞台にした神秘性やトライバルな感触を強めている。
スラッジメタル/ポストメタルの重厚さは肝であるが、ややチープなシンセの音だったり、民族音楽のサンプリングだったりをアクセントに奥行きのあるサウンドを展開。音に重さはあるのだが、多くは語らず。
聴き手にイメージする余白を与えながら楽曲を次々と上映していくことで、不思議と彼等の音世界に浸ることができる。2017年12月には初来日公演を実施(わたしも足を運んだ)。
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Toundra / Ⅲ (2012)
Toundraはスペイン・マドリードのポストメタル系インスト・バンド。2007年から精力的に活動を続けており、2022年には新作の発表を予定している。
本作はタイトル通りに3rdアルバム。ポストロック~ポストメタルの中間をいくようなサウンドという印象はあれど、畳みかけるようなドラムの加速と轟音ギターの旋回に惹かれる人は多いだろう。
定型をいい意味で崩しており、速遅と静動をうまくコントロールしている。最後を飾る「Espírita」はRPGの戦闘シーンで使われそうな雰囲気。
Vanessa Van Basten / Psygnosis (2009)
イタリアのポストロック/ポストメタル・デュオの2nd EP。13分と9分の2曲のみ収録で22分。Pelicanの2nd『The Fire~』とExplosions In The Skyの『All of a Sudden~』の混成ともいうべきクオリティを感じる。
凄まじい爆発力を備えた轟音、美しく柔らかいニュアンスのある叙情。鮮やかに移ろいゆく風景をその2つ艶やかに駆使して描く幽玄めいたサウンドスケープに心を瞬く間に持っていかれた。
低音域の充実とグルーヴの強靭さ、さらに冷たくもメロディアスな品位を湛えている。
We Lost The Sea / Crimea(2010)
オーストラリア・シドニー出身の(当時)7人組バンドの1stアルバム。Cult of LunaのMagnus Lindbergがプロデュース&録音、ミキシングを担当。そのCult of Luna(CoL)からの影響が色濃いポストメタル・スタイルが特徴。
静寂から轟音へのセクション移行、スラッジメタル譲りの鈍さと重量感、CoLのヨハネス・パーションを思わせるChris Torpyの咆哮。愚直なまでにポストメタルである。
本作はタイトルにある通り、”クリミア戦争(1853年-1856年)”が題材。また世界初の戦争詩人の一人と言われるハリー・ターナーの詩に、インスピレーションを受けている。戦禍の悲惨さをつづった物語であり、現代にもその問題は続く。
We Lost The Sea / The Quietest Place On Earth(2012)
2ndアルバム。1stアルバムから引き続くポストメタルの激動が続くも、デリケートな叙情性を加味。物悲しくも強靭な音像、感情が湧き立つストーリーを長い時間をかけて描く。
ポストメタルの強度をしっかりと保ちながら表現されるダイナミクスとドラマ性は先人達に引けをとらないレベル。2部形式20分の楽曲#6~#7「A Day and Night of Misfortune」は壮絶な音と感情の渦に飲み込まれる
翌年にヴォーカリストが自死を選ぶ。これを機に轟音系インストゥルメンタルへスタイルを変更し、世界的に称賛された3rdアルバム『Departure Songs』を発表した。
Year of No Light / Ausserwelt (2010)
フランスのポストメタル六重奏の2ndアルバム。彼等も20年の歴史を誇るバンド。特に大きな変化があったのが本作で、ヴォーカルが脱退したことで、完全インストへと移行しての初作となる。
1stアルバムで強烈な存在感があった咆哮が消え去り、NadjaやMONOを想起させる壮絶なまでの美しさと重量感を伴った轟音の調べが鳴り響く。
全4曲46分と1曲は長尺なつくりであるが、アンビエントの愉悦を覚え、増したシューゲイザーの恍惚感。それでも、全編から伝わってくる身を切るような凍てつく寒さと閉塞感がまた本作のキーとなっている。
Year of No Light / Consolamentum (2021)
8年ぶりに発表となった4thアルバム。タイトルの『Consolamentum』は”慰め”という意で、 “12世紀から14世紀に南ヨーロッパで栄えたカサリック教会の開始儀式である聖餐式を表している”そう。
スラッジメタルやドゥームの要素を含んではいるが、ポストロック/シューゲイズを耐荷重オーバーに落とし込んだスタイルはそのまま。
ツインドラムによる自在の速遅操縦と驚異の推進力、トリプルギターによるドゥームからシューゲイズのエレメントの多層化は、他にはない味となって聴き手を禁断症状に陥れる。
8年の歳月をかけてきた重音の叙事詩は、バンドの存在感を一層高めるはずだ。
まとめ
上記作品から弊ブログが入門編としてオススメするのは以下の5作品です。
- ISIS(the Band) / Panooticon
- Jesu / Silver
- Pelican / Australasia
- Russian Circles / Station
- Rosetta / Utopioid
取っつきやすさを重視してはいますが、ジャンル特有の高尚感みたいなのは拭えず。おそらく、この中で一番聴きやすいのはJesuです。4曲28分で曲自体は長いですが、一番ポップであるので。
インストの方が良いという方にはPelicanとRussian Circlesを推します。Rosettaの上記作はコンセプチュアルでありながらメロウな質感。ISIS(the Band)『Panopticon』は基礎といえる作品です。
以上となります。長々とお付き合いありがとうございました。本記事は定期的にアップデートしていきます。枚数は増えていくので何度でも見ていただくと嬉しいです。
- 初稿掲載時(2022年01月01日) : 66作品
- 二稿掲載時(2022年01月02日) : 76作品
- 三稿掲載時(2022年06月05日) : 88作品
- 三稿掲載時(2023年04月28日):90作品
- 四稿掲載時(2024年05月06日):105作品
最後にSpotifyで作成したプレイリストをお楽しみください。