ポストメタル・ディスクガイド 105作品

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ポストメタル・ディスクガイド⑥

King Woman / Created In The Image Of Suffering (2017)

 イラン系のアメリカ人女性シンガー・Kris Esfandiarが率いるポスト・ドゥーム4人組による1stアルバム。タイトルは訳すと”苦しみのイメージで創られたもの”。

 ドゥームメタル由来の空間を抑圧する重々しいグルーヴを軸にして、シューゲイザーやゴスという要素が交錯。首謀者であるKristina Esfandiariは、自らの声にエフェクトをかけて囁くような歌を基調とし、聖性の包容力と悪魔の怨念を放っている。

 輪郭のくっきり/はっきりしない音像とは真逆に、歌詞は彼女を苦しめた宗教的抑圧について糾弾。ドゥームメタルをアトモスフィア化させた儀式的/祈祷の音楽として鳴り響いている

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KYOTY / Undiscovered Country Of Old Death~ (2012)

 USニューハンプシャー州発のインストゥルメンタル・トリオによる初作。地響きを巻き起こすヘヴィネス、オリエンタルで艶やかなメロディの波、ドラマ性に長けた展開力。

 ”Next Pelican”とも評された実力を大いに示すデビュー作。Mouth Of The ArchitectからGifts From Enolaまでが横切るダイナミックな音像は強烈なインパクト。

 時に繊細に時に凶暴に吹き荒れるサウンドは、激情ハードコアへの憧憬も重なって壮大である。

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Latitudes / Agonist (2009)

 英国のポストメタル5人組による1stアルバム。NeurosisやCult of Luna、envy等に影響を受けたと公言していますが、Red Sparowesに近しさを覚える繊細な美しさと終末を見るような絶望が衝突する。

 妖気を帯びたヘヴィネスと耽美性が植えつけてくる畏怖の念。Neurosisから受け継いだと思しき儀式的なニュアンス、やたらと虚無感を覚えるファルセットのヴォーカル等で独自の仄暗さを表現している。

 2019年には4thアルバム『Part Island』を発表しており、活動は続く。

Lento / Earthen(2007)

 イタリアのスラッジメタル系インスト・バンドの1stアルバム。特徴としてはThinking Man’ Metal的な流れにあるバンドのひとつであり、スラッジメタルとアンビエント~ドローンを培養しながら、瞑想と重量感のある音楽を追及している。

 幕開けとなる#1「Hadrons」から鈍く重いリフを片手に持ちながら、前半は叙情的な面を見せますが、後半は黒い支配下に置かれていく。

 地獄の末端をのぞいたかと思ったら、急に宇宙空間に放り出されたり。心地よさよりも不穏さに意識が絡めとられていく感じはLentoらしい特色。

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Lento / Icon(2011)

 2ndアルバム。端的に表せば、”黒くて重いインストの完成系”である。トリプルギターの組み合わせによる硬質なパノラマ、重くシャープなリズムが作品を推進する。

 蹂躙され続ける鼓膜。それでも、アンビエントの楽曲が瞑想を促すように配置されていて救いを設けている。しかしながら、重いということに関して一切の妥協はなく。

 本作に収録されている「Hymen」が打ち立てる漆黒の音の壁に到達したバンドは、未だに表れていない。

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Light Bearer / Lapsus (2011)

 上記に挙げたFall of Efrafa解散後に、中心人物であったAlex CFを核として生まれた6人組による1stアルバム。

 17世紀のイギリスの詩人ジョン・ミルトンによる叙事詩『失楽園』やフィリップ・プルマンの小説『ライラの冒険』からの影響を公言し、神と対立して天界を追放された堕天使ルシファーの物語を深遠な音楽で表現する。

 Fall Of Efrafa後期からの延長上にある音楽だが、叙情性をさらに高めて重い美しさを持つポストメタルを展開。

 NeurosisとSigur Rosが手を取り合い、煉獄の底から天国の彼方までを行き来する13分越えの#2「Primum Movens」は、バンドの代表曲として君臨する。

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Light Bearer / Silver Toungue (2013)

 2年ぶりとなる2ndアルバムもルシファーの物語の続編。タイトルの”Silver Tongue”は銀の舌ではなく、雄弁や説得といった意味合い。基本的には前作の延長上にある音だが、これまでよりメロディが温かさや優しさを帯びている。

 オープニングを飾る18分超の#1「Beautiful Is This Burdon」は、ポストメタルの重量感を基盤に置きつつも、華やぎと色彩美をもたらすストリングスや管楽器とのアンサンブルが見事。Sigur Rosの『Takk』にも通ずる美と多幸感が盛り込まれると同時に本作を象徴する曲だ。

 しかし、四部作を予定していたもののバンドは本作をもって解散してしまった。

メインアーティスト:Light Bearer
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Long Distance Calling / Long Distance Calling (2011)

 ドイツのインスト・ポストメタル/プログレッシヴ・ロック5人組。ポストロック/ポストメタルに属すだろうインストではあるが、一癖も二癖もあってかなり振り幅は広い。

 宇宙・神秘・内省・といったキーワードを繋げ、70年代のプログ/サイケの旨味を濃縮。独自のインストを追及している。小奇麗な気品さと激しく猛々しい音色が衝突現象を起こしながら、怒涛の推進力と展開美で十二分に聴き手を魅了。

 ちなみに#6「Middleville」にJohn Bush(ex-ANTHRAX)がゲスト参加している。

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Long Distance Calling / Eraser(2022)

 8thアルバム。“人間の手によって浸食されていく自然や生物”がコンセプト。各曲は絶滅に直面している特定の生物を表す、と同時に捧げられる。

 曲順にあげていくとクロサイ、ヒガシゴリラ、ニシオンデンザメ、ナマケモノ、ワタリアホウドリ、ヒゲナガハナバチ、トラ、そして人間である。

 前作の反動からか電子音はあまり使わず、4人によるバンドサウンドをメインにしてゲストによる管弦楽器、少々のエレクトロニクスで構成。

 一番強烈なのはラストの表題曲#9「Eraser」のテーマは人間。種と環境の破壊、それが最終的には人間の滅亡に繋がることを緊迫した展開で表現している。

アーティスト:Long Distance Calling
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Lvmen / Raison D’Etre(2000)

 96年ごろに結成されたチェコの怪物。本作は98年の2曲入り28分のデビュー12インチ『Lvmen』と00年に発表の5曲入り45分のEP『Raison D’etre』をリマスター再録した全7曲収録。

 激情系といわれるポストハードコア、スラッジメタル、ポストメタルの集合体を基に、NeurosisやGY!BEに通ずる暗黒が支配している。

 その音像はenvyが闇落ちしたといえるかもしれない。読経や女性のオペラ聖歌が緊迫感や臨場感を煽り、映画音楽からのサンプリングも入ってくる。

 やたらと映像的な印象を受けるのはそのためか。破壊と退廃の蠢きをエモーショナルに描ききったこの激烈な音世界に打ち落とされる人は多いはず。

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LVMEN / Mondo(2006)

 2ndアルバム。さすがに6年もの歳月をかけて制作されているだけあって、前作以上に分厚く肉体化されたサウンド、シネマティックな叙事性を深めた楽曲の集合体は強烈。

 狂気を滲ませる中でも美意識の行きとどいた構築性の高さ、あまりにも悲痛な轟音と感情の奔流、手のつけられない怪物的音像・・・。

 NeurosisやISIS(the Band)にMogwai、GY!BE、さらにはポストロックにポスト・ハードコアやら激情カオティック・ハードコア等をストイックに探究しながら、血肉化し、煉獄に足を踏み入れるような闇世界を表現しきっている。

メインアーティスト:Lvmen
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