James Blackshaw ‐‐Review‐‐

1981年生まれのロンドンのギタリスト。現在までに9枚の作品をリリースしている。元々はパンク・バンドをやっていたというが、12弦ギターとピアノによる神秘の世界にもはやその面影はなく、ただただ陶酔するだけである。2010年には初めて12弦エレキギターを使った9枚目のアルバム『All is Falling』を発表した。

レビュー作品

> All is Falling > The Glass Bead Game > Litany of Echoes


All Is Falling

All Is Falling(2010)

   約1年半ぶりとなる9枚目。内省と瞑想のギター・インストゥルメンタル、彼の音楽を聴くたびに不思議な心地よさと共にハッと心の内側を抉られるような感覚を覚える。

 本作では、12弦アコースティック・ギターからエレクトリック・ギターに持ち替えて制作されたそうだが、彼の世界観はなお一層の発展を遂げている印象だ。金属的な響きを強めたアルペジオにピアノ&ストリングスの荘厳ながらしっとりとした旋律のミニマリズムが主ではある。っが、聴き手の創造力を無限に拡げていくこの感覚はやっぱり並じゃない。Part1~Part8までという全8曲のそっけないタイトルながら、静かだが強い引力をもった音に溺れ、悟りと覚醒を聴き手にもたらしてくれる。序盤はそれこそクラシックの趣を強めながらもコンパクトな楽曲を並べていて、いつもよりさらっとしている印象。けれども、彼が精妙に紡ぐ陶酔の波にのまれていくのは変わらずで、パーカッションやグロッケン等を絡めた煌びやかな中盤を経て、ラスト2曲の大曲で大いなる深淵へ向かう。よりクラシックやドローンの曲調を強め、ストリングス等で効果的な演出を加えながら、スピリチュアルなインストを滋味深くデザインしている様子。それによって重たく崇高な世界が浮かび上がってくる。

 序盤~中盤の印象で1曲1曲がちょいとあっさりとしているようにも感じるが、本作は1曲というよりは作品全体として大きな物語を育んでいるように感じた。荘厳で神秘的なサウンドスケープながら、いつも以上に温かみを感じるのはエレキの効能だと思うし、ポスト・クラシカルと強く親和していることにも納得。聴けば聴くほどに味が出てくることや涙腺をやられる作品を毎度創ってこれるこのセンスはさすがとしか言いようがない。憂愁や温かさを根付かせながら、心に優しくも荘厳に迫る彼の音楽は人々を惹きつけてやまないことを本作でも証明している。


Glass Bead Game

The Glass Bead Game(2009)

   ロンドンの若きギタリストによる8枚目の作品。タイトルはヘルマン・ヘッセの巨作『ガラス玉遊戯』から。基本は神々しさすらも覚える12弦ギターと麗しのピアノによるミニマルな反復で、幽玄世界へどんどんと引きずり込み、恍惚を植えつけていくような作風。一音一音を繊細なタッチで丁寧に奏でて楽曲を紡いていき、ゆっくりと表情を変えていくのだけど、そこから汲み取れる楽曲のイメージといったら非常に壮大で奥が深い。まだ若いというのにこれだけ味のある音楽を奏でていることに驚かされる。

 加えて、チェロやヴァイオリンといった弦楽器が甘美な響きを残したり、女性コーラスによる独特の神秘性が一段とその幽玄美に拍車をかけたり、とそのスピリチュアルな世界は濃厚で美しいことこの上ない。またクラシカルな格調高さも感じさせる。この神秘的な音の前には本当に呑まれた。それに、曲から伝わってくる奇妙なサイケ感覚も不思議と陶酔に陥る要因かと思う。決して激しくは無いものの、この作品で覚えるのはドローンやストーナー辺りにあるあの感覚だと個人的には思ったりも。

 12弦ギターにピアノ、ストリングス、女性コーラスで儚く彩られていく#1「Cross」、18分以上にも渡って続く神秘的な美しさの前に陶酔の泉に沈んでいく#5「Arc」は特に素晴らしいかと。しかしながら、5曲約50分と、おいそれと簡単に踏み入れることのできないような構成なのだが、切ない感傷とドラマティックなハーモニー&反復はじっくりと入り浸れることのできる素晴らしい作品だと思う。前作同様に聴き終わった後の余韻も格別だ。


Litany of Echoes (Dig)

Litany Of Echoes(2008)

    ロンドン出身の若き前衛ギタリストによる7作目。12弦アコースティック・ギターのしなやかで閑雅な響きを軸として、ピアノやストリングスを絡ませながら茫洋とした森の奥地へと誘うようなインストゥルメンタル作品である。

 クラシックや音響系の影響を多分に受けただろう本作は、ひんやりとした緊張感が背筋を艶めかしく刺すのだが、ドラマティックな情感に溢れている印象だ。静まり返った冬の海の向こう側から押し寄せてくるかのようなアコギのミニマルな旋律を下地にして、長尺な曲(10分越えが3曲)の中で徐々に変相していく幽玄なサウンドスケープが肝。けれどもこの年(本作の発表時は27歳)にして非常に奥深いものを感じさせる。要因はアコギが足元から感情を拾い上げるような鳴っているせいだろうか、幽玄的なピアノ・ヴィオラの調べが耽美に響くからだろうか。いずれにしてもダークな詩情を内包しながら、ひどく物悲しげに儚く聴き手の心を捉えてくる。それでいて内側から溢れだすエモーションが光を灯す。

 丁寧に爪弾かれるアコギにクラシカル調の流麗なフレーズを加えて物語性を高く引き上げていく#2、アコギ×ピアノ×ストリングスが溶け合いながら特に美しいハーモニーを優しく奏でている#4が特に素晴らしいかと。ただひたすらに暗闇の中で静かに燃え続ける蒼白い炎のような本作、聴き終わった後に湧きあがってくる感激もまた一入で柔らかなフィーリングにもまた安らぎを覚えてしまう。おいそれと簡単に踏みいれられる世界ではないかもしれないが、平静と孤高のアートを紡ぎあげていく様、幻想的で清廉としたサウンドに驚きを隠せない素晴らしい一枚。

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