【アルバム紹介】James Blackshaw、12弦ギターの魔法

 1981年生まれのイギリスの12弦ギター奏者。12弦アコースティック/エレキの両ギター、ピアノを用いた神秘の世界は聴く者を魅了する。Swansのマイケル・ジラのレーベルのYoung Godを始めとして世界各国のレーベルから作品をリリース。

 2016年9月をもって活動休止しますが、2019年7月に活動再開を宣言しています。

 本記事は6th~8thアルバムまでの計3作品について書いています。

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アルバム紹介

Litany Of Echoes(2008)

    6thアルバム。全6曲約53分収録。12弦アコースティック・ギターのしなやかな響きを軸として、ピアノやストリングスを絡ませながら茫洋とした森の奥地へと誘うようなインスト作品です。

 クラシックや音響系の影響を多分に受け、ドラマティックな情感に溢れている。静かな冬の海の向こう側から押し寄せてくるかのようなアコギの旋律を下地にして、10分越えが3曲を数える長尺な曲の中で徐々に変相していく幽玄なサウンドスケープが肝。

 丁寧に爪弾かれるアコギにクラシカル調の流麗なフレーズを加えて物語性を高く引き上げていく#2、アコギ×ピアノ×ストリングスが溶け合いながら美しいハーモニーを優しく奏でている#4が特に素晴らしい。

 ダークな詩情を内包しながら、ひどく物悲しげに儚く聴き手の心を捉えてくる本作。おいそれと簡単に踏みいれられる世界ではないかもしれませんが、平静と孤高のアートを紡ぎあげていく様に驚きを隠せない一枚。

メインアーティスト:James Blackshaw
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The Glass Bead Game(2009)

   7thアルバム。全5曲約50分収録。タイトルはヘルマン・ヘッセの巨作『ガラス玉遊戯』より。神々しさすらも覚える12弦ギターと麗しのピアノによるミニマルな反復によって引きずり込まれる幽玄世界。

 一音一音を繊細なタッチで丁寧に奏でて楽曲を紡いていき、ゆっくりと表情を変えていくのだけど、そこから汲み取れる楽曲のイメージといったら非常に壮大で奥が深い。

 チェロやヴァイオリンといった弦楽器が甘美な響きを残したり、女性コーラスによる独特の神秘性が一段とその幽玄美に拍車をかけたり、そのスピリチュアルな世界は濃厚で美しいことこの上ない。

 またクラシカルな格調高さも感じさせ、奇妙なサイケ感覚も不思議と陶酔におちいる要因。

 12弦ギターにピアノ、ストリングス、女性コーラスで儚く彩られていく#1「Cross」、18分以上にも渡って続く神秘的な美しさの前に陶酔の泉に沈んでいく#5「Arc」は特に印象的な曲。

 切ない感傷とドラマティックなハーモニーはじっくりと入り浸れることのできる。前作同様に聴き終わった後の余韻も格別です。

メインアーティスト:James Blackshaw
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All Is Falling(2010)

 8thアルバム。全8曲約45分収録。内省と瞑想のギター・インストゥルメンタル、彼の音楽を聴くたびに不思議な心地よさと共にハッと心の内側を抉られるような感覚を覚えます

 本作では、12弦アコースティック・ギターからエレクトリック・ギターに持ち替えて制作されたそうですが、彼の世界は不変。

 金属的な響きを強めたアルペジオにピアノ&ストリングスの荘厳ながらしっとりとした旋律のミニマリズムが主。ではありますが、聴き手の創造力を拡げていく感覚は並じゃない。

 Part1~Part8までという全8曲のそっけないタイトルながら、静かだが強い引力をもった音におぼれ、悟りと覚醒を聴き手にもたらしてくれます。

 序盤はそれこそクラシックの趣を強めながらもコンパクトな楽曲を並べていて、いつもよりさらっとしている。けれども、彼が精妙に紡ぐ陶酔の波にのまれていき、パーカッションやグロッケン等を絡めた煌びやかな中盤を経て、ラスト2つの大曲で深淵へ向かう。

 よりクラシックやドローンの曲調を強め、ストリングス等で効果的な演出を加えながら、スピリチュアルなインストを滋味深くデザインしている様子。本作は1曲というよりは作品全体として大きな物語を育んでいるように感じます。

 聴けば聴くほどに味が出てくることや涙腺をやられる作品を毎回つくるこのセンスはさすがとしか言いようがない。

メインアーティスト:James Blackshaw
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プレイリスト

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