【作品紹介】swancry、美しく吠える白鳥に魅せられて

 日本のアイドル・ユニット、ゆくえしれずつれづれで2015-2019年まで活動したhikageによるソロプロジェクト。叙情系ハードコアをベースに、彼女のスクリームと甘い歌唱、葛藤をつづった詞を音楽に乗せる。

 本記事はこれまでに発表されているEP2作品『albireo』『呼吸が止まる前に』、2024年12月25日リリースの1stアルバム『幾つもの祈りへ』について書いています。

※前提として、hikageさんが以前に所属していたゆくえしれずつれづれを聴いてない人間がこの記事を執筆しています(ついでに言うと叙情系ハードコアもあまり詳しくない)。

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作品紹介

albireo(2022)

 1st EP。全5曲約18分収録。swancryはソロプロジェクトとなりますが、楽曲は様々なコンポーザーから提供されたスタイルを取り(hikageさんが参加する場合もあり)、歌詞は彼女によるものです。

 リリースから2年後となるコメントですが、AVYSSで”1st EPはオルタナティヴ色が強い”と語っています。そうした基盤がある中に激情や叙情が枕詞につくハードコア、ポストロック、シューゲイザー、アニソンといった要素が含まれる。

 包み込む柔らかさ、それとは裏腹な鋭利さが音楽的に含まれており、hikageさんのヴォーカルはその震源にあります。甘いウィスパー、ポエトリーリーディング、透明感のある歌唱、そして痛ましい叫び。それらを彼女がワンオペでこなしており、某芸人じゃないですがギャップの高低差で耳キーンとなる(もちろん良い意味で)。

 前述した彼女のヴォーカルを全部乗せした#1「残映」から切なさブーストをかけて人々を魅了。でもキレイにはまとまろうとしない個の強さを感じさせ、歌も演奏もどう聴いたって凛として時雨な#3「ignorance」、初期のマスドレっぽい心地よい疾走感がある#5「albireo」といった曲を揃えています。

メインアーティスト:swancry
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呼吸が止まる前に(2023)

 2nd EP。全5曲約18分収録。muevo voiceには”タイトル「呼吸が止まる前に」は、自分の体がいつ動かなくなるかわからないし、聴いてくれる人もいつ聴いてくれなくなるかわからないので、届けられる内に届けたいという気持ちと、リード曲である「Re:spiration」(もう一度呼吸をするという意味の造語)と繋がりもあり「呼吸が止まる前に」となりました“と本人コメントが載る。

 冒頭を飾る#1「花」からいきなり本気です。”証明せよ”の叫びで空気が変わるどころか、逆に花が散っちゃうじゃんと心配する強烈さ。前作よりもスクリームが激情寄りになったり、シューゲイザー度の増量、envy~heaven in her arms辺りに通ずるクリーントーン、#5「Re:spiration」における男声コーラスなどが変化をもたらします。

 音的にはポストロック~シューゲイザー寄りの柔らかなトーンや揺らぎのある空間使いが目立ち、#2「snowdome」~#4「ambivalence」までの3曲はその傾向が表れています。前作はオルタナ/ギターロック寄りでしたが、本作の方が彼女の歌声をより聴かせるようになっている。そして透明感があって白のイメージが先行するつくり。

 その上で歌唱のふり幅はさらに大きくなっており、スクリームは先述しましたが、甘い歌唱は萌え度が上がっている。例えるならいちごのショートケーキと蒙古タンメン中本がテーブルに代わる代わる出てくるようで、何も知らない人が聴いたら3~4人ぐらいヴォーカルが入れ替わってると思うのが普通。まだ進化の余地があると思いますが、声のギャップを己の美点に昇華しているのは強く惹かれる理由ですね。

 本作で特に好みなのがMVが制作されている#3「深海から」。スロウダイヴ風のせせらぐギターの上に朗読を乗せ、終盤では痛ましい叫びが入ってくる。歌詞も自身の存在証明を示すようで胸にきます。

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幾つもの祈りへ(2024)

 1stアルバム。全8曲約33分収録。”活動当初から型にハマらないように色々な音楽を取り入れています(AVYSSより)”。その言葉通りに本作ではブラックゲイズの要素を補強。速射砲のようなブラストビートや増量したスクリームパートからもわかる通りに、全体的にアグレッシヴで疾走感のある曲が多くなっています。

 Deafheavenの洗礼を受けたようなオープナー#1「I am」からあまりに衝撃なんですが、#4「Meg Mell」まで続く前半4曲はリミッターを振り切っている。それでも過剰な暴走の中にも甘い歌声や美麗なトレモロをデコレーション。葛藤を言葉にしたためたり、攻撃的なサウンドに比重を傾けてはいても前EP『呼吸が止まる前に』にも感じた白のイメージが先行する。

 なかでも#2「イノセント」はインパクトのある楽曲で、可憐なピアノやポエトリーリーディングといった叙情的な性質、捲し立てる激しい要素が交錯する。終盤の切迫した歌い回しにはPassCodeのやちいさんを思わせます。

 そんな本作の音像は明日の叙景とenvyとworld’s end girlfriendとスロウダイヴがガッチャンコしたように感じるのですが、核には”祈るしかない無力さと、祈らない強さ“をテーマに書いたという歌詞とhikageさんの声がある。その調和と洗練がより確かなものとなっているのが『幾つもの祈りへ』です。

 特に締めくくりとなる#8「Birth」。(多分ですが)コオロギの泣き声のサンプリングやメロウなギターに乗せた”ねえ、白鳥は死ぬ間際に一番美しく鳴くんだって“と自らをモチーフにした言葉に始まって、アルペジオの高鳴り、”走って走って走って”の痛切な叫びを伴いながらドラマティックに突き進む。とてもシビれる1曲。

 そして美しく吠える白鳥に魅せられる本作に祝福と賛辞あれ。

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swancry/ 1st Album”幾つもの祈りへ”teaser
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