「年収90万円で生活する」ってどういうこと?実現できるの?というのが誰しもが思うところです。
ですが、大原さんは、23歳で東京に上京。当初は家賃70,000円のシェアハウスであくせくしていたそうですが、「オレ、こんな労働ばっか無理―」と25歳で東京郊外の多摩地区にある家賃28,000円の物件に引っ越す。それを機に週休5日の隠居生活を実現。月収7~8万円で生活費が6~7万円。東京にて約6年間、年収100万以下で生活することを達成します。
極端すぎるのでこの生活はマネできません。【第三章 衣食住を実感する暮らし】にて大原さんの生活について、詳しく書かれていますが、参考になってもやっぱりマネはできない。わたしも衣については、私服のほぼ固定化を目指して断捨離しておりますが。食生活は自炊している人じゃないと取り入れることできないですね。
そんな生き方を学びましょうという本ではなく(笑)。考え方を学ぶ本だと思います。
著者紹介
大原扁理さんは1985年生まれ。愛知県三河地方の貧困層の家庭に育ち、学生時代はイジメを受け、高校卒業後には唐突に世界一周旅行に出かけ、さらにはアルバイトを通して労働は向いてないと悟る。
経験からいろんな気付きを経ての隠居生活に至るわけですが、世の中の当たり前は自分には当てはまらない。だったら「自分にとってのハッピーライフを送ろう」とこの生活に辿り着いたのです。
フツーって、何?
本著は【第ニ章 フツーって、何?】が肝だと思います。読者への重要な問いかけのひとつが「そのフツーって誰のため?」です。友達、進学、就職、結婚、マイホームなどは人生で本当に作る/しないといけないことですか?
誰かと比べた幸せではなく、世間が求める生活ではなく、すべては自分次第です。まず自分があります。それから自分にとって必要なもの・ことが決まっていきます。これまでの鉄板の生き方は、現代に少しずつ当てはまらなくなってきていますが、それでも周りからは圧力がかかる。わたしも30代半ばになり、その圧力を受ける日々です・・・。
わたくしのバイブルの一冊でもある村田沙耶香さんの『コンビニ人間』には「普通」信仰に対する揺らぎと疑いが書かれています。「普通」に定義はないけど、よく使うそのブランドに日本人はこだわっているし、謎の憧れを持っている。そういう国民性。
でも、その普通が今やレベルの高いことになってしまったのが現代。そんな中でも普通を抜け出し、やり方次第で自分らしく生きていける時代でもあります。
自分軸の確立
最近の言葉で言うと、「自分軸」を確立することでしょうか。自分に合っているか、自分の考え方を大事にすること。大原さんは、自身の生き方について本著で以下のように述べています。
例えば、今年のアカデミー賞で作品賞に輝いた『ノマドランド』です。フランシス・マクドーマンドが演じるファーンが、車中泊と短期仕事を繰り返しながら、各地を漂流する。
最初は夫を亡くし、その車中泊生活を余儀なくされたという側面が強い印象でしたが、その生活が染みついていき、続けていくことになります。自分にとっての最適な生き方、幸せな形はそれぞれにある。漂流はしていても、自分自身が周りに流されて生きているわけではないというのが印象的でした。
生き方を決めたなら、それに従って、ただシンプルに生きていく。それだけを日々、積み重ねる。「100人の他人からの「いいね!」よりも自分ひとりの「いいね!」が勝る(P222)」と大原さんは言います。
自分自身のベストな方法を考えて、確立すること。著者の生き方はひとつのサンプルにしか過ぎないわけです。それが極端過ぎるからすごいのですが(笑)。
著者の印象的な言葉
この言葉に集約していると思います。「これぐらい目標を下においとけば、絶望しなくてすむ。人間、やりたいことはわかんなくても、やりたくないことだけは意外と迷わない」と著者は続けます。
嫌いなことは絶対にせず、楽しく生きる。自分が思うやり方でシンプルに毎日生きていく。その実践で培ったことが本著には書かれているわけです。
お金よりも心の豊かさや時間のゆとりを優先する。そして、生き方は人それぞれ。繰り返しますが、考え方を学べる本だと改めて思います。
本著の執筆後、著者は台湾へと移住。海外で年収○○円にてハッピーライフができるかを実験中で、昨年末に『いま、台湾で隠居しています: ゆるゆるマイノリティライフ』を刊行されています。