2024年よかった本まとめ

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2024年よかった本まとめ②

千葉雅也『センスの哲学』

センスとは、ものごとを意味や目的でまとめようとせず、ただそれを、いろんな要素のデコボコ=リズムとして楽しむことである

センスの哲学』p134より

 センスとは何か? センスの良し悪しとはどういうことか?という考察に始まって本質に迫っていく。生活していく中でいろいろなものに触れること、作品に意味を求めるよりもリズムやうねりを感じること、芸術とはそれをつくる人の「どうしようもなさ」を表すものなど。ここまでセンスを哲学した本は確かにない。

 芸術(文学、美術、音楽、映画など)を日常に取り入れていくかが鍵であることが読んでいると伺えます。それによって日々が活性化し、何かが動き出している感覚が味わえるというのは納得するところ。結局は何を受け取り、何を感じ、何を思い、何を生むのか。その全てが生きることにつながっている。

 終盤にある付録「芸術と生活をつなぐワーク」や理解を広げるための読書ガイド、また巻末「おわりに」で述べている”批評の権利”も合わせて参考になる部分が多かったです。

 とはいえ音楽も小説も映画もいろいろふれているわたしですが、センスが良いなんてまるで思えない。それでも日々の蓄積から自分だけの感性みたいなものは育っていると思います。だからこそこの個人ブログは成り立っているわけです。

芸術に関わるとは、そもそも無駄なものである時間を味わうことである。あるいは、芸術作品とは、いわば「時間の結晶」である。答えにたどり着くよりも、途中でぶらぶらする、途中で視線を散歩させるような余裕の時間が、芸術鑑賞の本質です。

センスの哲学』p186,187より
著:千葉 雅也
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イーユン・リー『理由のない場所』

 自死した少年とその母親が生と死の境界を越えて会話し、それを母親が小説として書いたもの。実際に著者のイーユン・リー氏は長男を自死で亡くしているのですが、とりとめのない架空の対話の端々からは自責の念、現実を受け入れられない悲しみが通底する。今年読んだ小説の中ではトップ3に入ります。

詩と物語は、語り得ないことを語ろうとしているんだよ。ママは言葉は不十分だっていつも言ってるよね。言葉は不十分。それはそうなんだけど、言葉の影は語り得ぬものに触れられることがある。言葉に影はできないよ、ママ。言葉はページの上で生きているんだから。二次元の世界で。それでも、私たちは言葉にいくらかの深みを求めるじゃない?三次元の世界で見つからないとき

理由のない場所』p238より
著:イーユン・リー, 翻訳:篠森 ゆりこ
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勅使河原真衣『働くということ』

 終わる気配がない『選ばれる人』であれという重圧、社会が信奉する能力主義に対して、自己責任でなんとかするしかないという世の風潮。そういった無理難題な設定がある中で働くという根源的なことを考える書です。

 話の中心は前述した能力主義や選抜/選考/選別的なところですが、その段階を抜けて良い未来にしていくためのヒントが散りばめられている。人と人の組み合わせや関係性を重視する見方は勉強になりましたね。

他者や環境と「組み合わせ」て生きること。他者と「ともに在る」こと。これこそが労働であり、教育であり、社会で生きることだ。汝あっての我。他者に心からの感謝と敬意を

働くということ』p248より

近藤康太郎『百冊で耕す』

本はわたしが選ばなければわたしの手の中にやってこない。本は、わたしが目を動かさなければ、語り始めてくれない。本はわたしの知らないことはもちろん、予期しない問い、嫌いな結末さえ運んでくる。テレビやネットと違うところ。つまり、本は<自発>だ

百冊で耕す』より

 文章術の名本『三行で撃つ』の著者らしい言葉で本を読む心構え、読書法を説く。とても有意義な読書術の本です。内容を忘れてもいいし、良さがわからなくてもいいし、積ん読も大いに結構と書いている。読書に答えや結論を求めるのではなく、読書とはより新しい/深い問いを獲得するための冒険だというのは、とても納得がいった。

 巻末の”百冊選書”も大いに役立ちます。

あらすじを言えるのが、なにほどのことだろう。自分は何歳で、どんな環境にあって、どういう不安や悩みを持っていて、本を読むことで少し変わったのか、変わらなかったのか。自分が浸っていた空気を感じること。言語化できること。それがたしかに本を読んだというあかしだ

百冊で耕す』より

和嶋慎治『屈折くん』

 国内外で高い評価を受ける唯一無二の怪奇派ロックバンド・人間椅子のフロントマン・和嶋氏による自叙伝。

 オズフェスで1回観たことあって、アルバムをちょっとかじってるぐらいのわたしですが、氏の人生の悲喜交々と揺るぎなさが沁みます。小学生の時にはイジメを受けてその反動で中学生でギターを始めたり、華々しいメジャーデビューから曲が書けない/売れないの苦しみを味わったり、2年間結婚していたことを本書で知ったり、住んでいるアパートでギターが弾けないからももクロとの仕事の準備を公園でしていたり。人生は本当にいろいろある。

 ”本書の主眼は、人間にとっての何よりの宝物は苦労と試練だ、というところにある”。そんな言葉を残しますが、和嶋氏は苦労があってこそ人間は輝くみたいなことを地で行ってるお方。それでも飾らない人柄。人間にとってやっかいなのは”知恵と欲”とも文庫版あとがきで説いているので、気を付けていきたい所存。

苦労をして、芸術の片鱗が分かって、生き方の鍵を見つけて、自分の心から作品を生み出せるようになった、売れていなくともはるかにそのほうが芸術家としてまっとうではないか。そして僕は、そのことにこの上もない幸福を感じていた(本書より)

屈折くん』より
著:和嶋 慎治
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お読みいただきありがとうございました!
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